【短編】異星人愛者の思し召し

点々と光る恒星達の隙間を埋める無の空間で、一機の小さな宇宙船が、光をも置き去りにして泳いでいた。
前方300光年先にある惑星を、レーダーが感知した事に気づき、名だけの船長であるホン・ポリスはゆっくりと宇宙船のスピードを下げていく。
サイドの窓から見える一次元の閃光は、1光年未満になるころには船内の空間と同調し、やがて0次元と化して瞬いた。

「ついに、ついに見つけたぞ!星だ。同士よ、星を見つけたぞ!」
息を弾ませながら迫ってくるホン・ポリスの声に、ンバリア・ハービンが目を覚ます。
「もう、うるさいよポリス。」
彼女は寝起きが悪い。ベットルームから出てくる第一声は、決まってホン・ポリスへの悪態だ。いつもならポリスは凹むのだが、今回は一層声音に熱を帯びていた。
「うるさいだって?うるさくもなるさ!見ろよンバリア、あの惑星を見ればノルだって声を荒げるぜ。」
ノルというのは、船内の端っこで本を読む男、ノル・ディーアの事であり、つまり私の名称を指している。
「いたって平然じゃない。ポリス、貴方頭おかしい。」
今度の悪罵には流石に傷ついたらしく、言葉をつぐんだポリス。少し哀れに思った私は、彼をフォローしてやることにした。
「まぁポリスの気持ちも分かるよ、あのレーダーに反応したって事は生態系があるって事だ。
もしかしたら我々のような高等生物もいるかもしれないね。」
ポリスは再び顔をあげて、私の肩に腕を回した。
「そうさノル、流石この船のブレインだ! 
ワレワレはあの星の高等生物とコミュニケーションを取る最初の人類となるのさ。」
分かったかンバリアめ、と語尾に付けたしたそうな顔でポリスは彼女を一瞥した。ンバリアの顔は一段と色をなしている。

だが私は、ご満悦なノルの愚挙には反対した。
「いや、それは無理だよ。あの星には着陸できない。」
目を大きく見開くポリス。
「なんで?」
「未知だからだよ。我々はあの星について何も知らない。
酸素濃度は適合してるか?感染症を持ち帰る恐れはないか?そもそも生物は我々に友好的か?
今思い付くリスクだけでも山ほどある。
いいかい、我々がするべき事は開拓ではなく、あの星の存在を研究者達に知らせ、あらゆるリスクを取り除いて貰うことだ。」
「流石この船のブレイン。貴方が船長だったら良かったのに。」
ンバリアはポリスへの嫌みを込めて、ふふんと鼻を鳴らした。だがポリスは食い下がらない。
「違うよノル。こういうのは、一番最初だから意味があるんだぜ。研究者に調べあげられた後の惑星なんて、未知の惑星でもなんでもないよ。そんなもん・・・そんなものは攻略本をみた後にやるRPGみたいなもんさ。中身がわかる状況で開く宝箱に胸が高鳴るかい?」
「リスクの話とは別だ。我々にコンテニューはないんだぞ。」
「ノル、船長は俺だ。俺が決める。」

ポリスは操縦席に座り、船を操作した。
「そんなの勝手すぎるわ。バカポリス、操縦をノルに替わって。」「いやだ。」「ポリス冷静になれ、君のワガママで三人とも危険に晒されるんだぞ。」
私はポリスを操縦席から引きはなそうとしたが、体格のズッシリとしたポリスに、“ブレイン”である私が敵うはずもなかった。

星がドンドン大きく近づく。
「くそったれ!」
私とンバリアはやむを得ず、席に座る。
船はついに大気圏に突入した。
身体に思いっきりGがかかる。船が大きな音をたてて軋む。
次の瞬間、まるで超大型トラックがマッハで衝突してきたかのような爆発音が鼓膜を揺らした。
圧力に耐えきれなくなった船体が、ボロボロと崩れだしたのだ。
このままでは間違いなく不時着する。地上までの距離は凡そ50㎞といった所か。その数値も、死を悟る我々などなおざりにして、ぐんっと小さくなる。
10㎞に差し掛かるか否かの時、まさに間隙を縫って、私は船体用パラシュートの開閉ボタンに手をかけた。
大きく風を切って帆が空を覆う。

速度は幾ばくかは低減したが、まだ速い。開くのが遅すぎたか?
二人の状況に目をくれる余裕もなく、落下方向に視線を向ける。青い。それが“水だ”と認識する前に五感がそれを体現した。
逆行する滝のように水しぶきが上がる。

痛いぞ。水はこんなにも痛かったのか。
低い水温が体全体に染みる。
そして困ったことに私は泳げない。
友人数人に海につれられた時、一人浜辺で待ちぼうけしたのは苦い思い出だ。あぁ、これが走馬灯。

足掻くのもやめ、沈んでいこうとした私の華奢な体を、隆々とした腕が救い上げた。
腕の持ち主はホン・ポリスだ。
我々を窮地に追い込んだ張本人が、皮肉にも私を救ったのだ。

陸に上がると、私は飲み込んだ水を吐き出しながら、フラフラの状態で、力の限りにホン・ポリスを撲りつけた。
「何て愚かだ、私があれほど警告したというのに。
みるんだポリス、この星の重力で宇宙船も破損してしまった。どうやって故郷に帰る?
宇宙船を作っても、大気圏を越える前に、また重力にやられてしまう。
星を出ることすら出来ないぞ。」
私の悪罵に反論する事もなく、ポリスは目を伏せて、じっとしている。
私は鼻を鳴らしつつも、なるべく冷静になるように努めた。ところが不意に聞こえてきた女性の呻き声が、また私の憂慮心を煽る。

「ンバリア!」
彼女の太ももに、宇宙船の部品が刺さっていた。
陸まで泳いでこれたのが奇跡と言えるほど、深く、傷口から流るる深紅の血は海水と混じって、不規則にグラデーションを発生させていた。
ンバリアの蒼白とした顔からは、大量の汗がほとばしっている。
私はやにわに自分の服の布を破り、傷口に止血を施した。これで幾分でもマシになるといいが。
ポリスは私の後ろでじっと彼女を眺め、口をつぐんでいた。手は微かに震えている。

「君をなじる気はないよ。」 
私はポリスと目も合わせずにいう。
現状を打開する為の考えを巡らせる事に必死で、彼の心情を忖度している暇などなかった。
未知の地。あらゆるリスク。そして手合いであるンバリアは、私が思案に暮れている間も衰弱していく。
今一番肝要なのは、慎重かつ迅速に行動する事だろう。さもなくばンバリアが死ぬだけだ。
もしくは我々3人かもしれない。


私はンバリアをポリスに任せて、草木の生い茂るこの星を散策する事にした。
目的は“この星の住民”を探しだし、ンバリアを治療させる事だが、正直、さほど期待はしていなかった。
だいいち、“この星の住民”が高等生物であると限らないし、高等生物だとしても、我々と体の構造が類似していなければ治療など不可能だろう。
もしそうであれば、医療機器を借りて私が治療を施さねばならない。
医者でもない私が、本の知識だけで出来るだろうか?いや、やらねばならないだろう。
最悪、高等生物など発見しなくても・・・どうにかして・・・

見たこともない植物(そもそも植物なのか?)をかぎ分け、私は遂に“道”を見つけた。思わず安堵の息が漏れる。
道があると言うことは通る者がいるということだし、通る者が高等生物である確率は高いはずだ。
この道を辿って歩けば集落が現れるかもしれない。

希望に胸を震わせる私は、更なる希望を発見した。
二足歩行の生物が、道を外れた先にある崖の上に立っていたのだ!
私は「おーい」と声高に叫びながら、その生物に走り寄った。
生物付近に辿り着くと、ゼエハアと息を切らせ、膝に手をつきながら言う。
「近くにいて良かった。我々を助けてほしいんだ。」
しかし私は、発言し終えてから、しまったと思った。
こんな宇宙の外れにある星で、我々が使う“宇宙共通言語”が伝わると思わなかったし、そもそも姿が違う私に怯えるかもしれない。
もっと言えば、我々と同じ二足歩行だからといって、高等生物だとは限らないではないか!
「あなたはだあれ?」
完全に失念してしまった。ほれみろ、生物は私と目も合わさないではないか。・・・ん?
「ねえ、誰だってば。」
「え?あ、あぁ。ノルだ。ノル・ディーア。」上ずった声で答える。
「ふうん。あたしはエマ・グリーンよ。」
なんと、まあ。宇宙共通言語を知っていたか。
その生物は目が小さく、口の位置も高いし、顔が中心に寄っていて、我々とは似ても似つかない姿ではあったが、全く未知の生物、というわけではなさそうだ。言語が通ずるのは大きい。

「ところで何かよう?」
エマの声にハッとする。
「そ、そうだ。この辺に街はないか?
私の仲間が怪我をしていて、治療がしたいんだ。」
端的に述べた。
「そういうことなら、急ぎましょ。あたしが住んでる町が近くにあるよ。30分くらいはかかりそうだけど・・・」
そういい、エマは樹木に立て掛けていた白い棒を手にもち、地面をつきながら歩きだした。
「なんだい、その棒は?」
エマは少し驚いたような顔をして、回答した。
白杖よ。生まれてからずっと、目が見えないの。」
なるほど。私の姿をみて驚かないのも、そういう訳か。
我々の星付近だと、身体障がいは医療技術と社会保障の飛躍により、かなり前に絶滅したが、後進星では未だに、産まれながらにして身体能力の格差があるというのは、本で読んだ事がある。

エマはコツコツと歩きながら、崖の方を振り返った。
「あそこにいくとき、杖を持たずにいくの。
崖があるから近寄るなって、周りの人には何度も聞かされたけど。」
「何故いくんだい?」
私も崖を一瞥してみた。奥には絵で描いたかのような黄昏空が、海を赤く照らしていた。その全てが美しかった。
「あの場所に立つと風が気持ちいいの。
それに、両腕を広げると自由になったみたいよ。」
エマの顔は、正確に崖の方向を向いていた。
目の見えないエマは、何故あそこにたどり着けるのだろう?
恐らく、何万回と連れ添われて、覚えたのだ。
歩数や歩幅、足の裏の感覚や、体内時計。
目の自由な我々には、想像もできないような視覚がエマにはあるのだろう。
もっとも、私には関係のない話だが。

エマを追随し始めて20分が過ぎた頃。
周りの景色は徐々に、道路であるというインフラが整いだし、目の前には、町にある大きな建物が、ハッキリと輪郭をなしていた。
さっきいた場所と比べると、タイムスリップした気分になれるほど、都会的な景色だった。
私が、周りの風景をキョロキョロと見渡していると、前方から二輪車が、がなりたてるようなエンジン音を出しながら近づいてきた。
我々の星では、数世紀前に絶滅した産物のものだった。

二輪車は黒い煙をあげて、我々の前で停止した。
操縦者がフルフェイスのヘルメットを外すと、中から、しわくちゃで、白髪頭の生物がでてきた。
我々の星での概念と同一であれば、恐らく老人だ。
白髪頭はエマの方をじっと見つめた。
エマはエンジン音がうるさくて、居場所が上手くつかめなかったのか、明後日の方向を向いていた。
「エマかい?さては、また崖に行ってたんだね。」 
「ウィリアムおじさん?ううん、今日は海に行ってただけだよ。」エマは私に「ね?」と念を押した。
話を合わせろという合図なのだろう。
「そのお方は?」
ウィリアムおじさんとやらは、私の方に顔を近づけて、じっと凝視した。この星では目が悪いのがデフォルトなのだろうか。
私の姿にピントが合ってきたのか、ウィリアムおじさんの顔色は、ドンドン悪くなっていった。
顔も小刻みに震えている。
「バカな、そんなことはありえない・・・」
ウィリアムおじさんは後退りした。
「あの、訳を話させてください」と私。
「あ、あり得ない。お前のようなものは、存在しないはずだ。存在してはならないのだ。」
完全に怯えた目付きだ。当然の反応と言われればそうなのだが。
「神が・・・、神がお怒りになるぞ!お前は消されるのだ!」
そう言い捨て、踵を返して2輪車で町の方へと、走り去っていった。私は憮然としながらも、エマを向きかえって言う。
「変わった人だね。」
しかし、エマの顔も青ざめていて、さっきの人同様に怯えていた。
「あなた神に何をしたの?」
そう尋ねる声は、明らかに震えていた。
「神って、君は宗教家なのかい?それともこの星全体がかね?」
「星?」
しまった。また失言した。
「なんでもないよ。」と誤魔化す。
私は疲れきっているのだ。
だがエマはその発言には、あまり関心がないのか、言及はしてこない。むしろ気になったのは、前半の発言らしい。
「神は宗教じゃないよ。」
「あぁ、そうか。よし、この話は終わりにして、町へ急ごう。さっきも言ったが、同胞が危機的状況にあるんだ。」
「あたしが連れていかなくても、貴方は神に捕らえられるよ。仲良くなれると思ったのに、残念。」
「何をバカな事を・・・神を信じるのは個人の自由だが、私をその観念に取り込まないでくれ。」 
「そう遠くないよ。」
「君はさっきからなにを」
すると、空から光が降り注ぎ、私の体を宙に持ち上げた。
バカな、本当に神秘現象が私に?
いや違う。上方を見ると、大きな飛行船が浮遊していて、そこから垂れ下がるワイヤーにぶら下がった、迷彩服の生物が、私の細身の体を持ち上げたのだ。

「貴様を神の下まで連行する。」
神の下まで連行。ほう、それは興味深い。
普段であれば願ったりかなったりな状況かもしれないが、今は普段ではない。
私は、ンバリアを治療しなくてはならないのだ。
だから、連れていかれないよう、必死に抗ったが、地上が遠くなるのを見て、諦めた。
こうなったら、神とやらにンバリアを治癒してもらうしかないな。魔法の力とか、なんとかで。
その思考とは逆に、私は既にンバリアの死を悟ってしまっていた。最初から、どうのしようもなかったのだ。

「着いたぞ。」
飛行船で運ばれてから、何時間が経過しただろうか。途中、疲労で睡眠してしまって、正確な時間が掴めない。
飛行船の窓も、カーテンで閉めきられている為、今が朝か夜かすらも分からなかった。恐らく、ここにたどり着くまでの道を悟られない為に、施している事だろう。
飛行船の外に出ると、壁から床まで、鉄のような素材で出来た広い部屋にいて、歩く度に足音が鳴り響いた。
迷彩服の生物が私を乱暴に押しやって、奥の部屋まで連行する。
「ここだ。」
そういって入れられた部屋には、“ホン・ポリス”がいた。私はあまりの驚きに、上ずった声で尋ねた。
「君が神なのかポリス?」
「違うよノル。俺もここに連れてこられたんだ。」
すると、迷彩服の生物が口を挟んできた。
「ここで待て、と言う事だ。」
「なるほど。」

私が部屋の隅に座り込んでから、暫くの沈黙が続いた。ポリスはソワソワと落ち着かない素振りで、何度も鼻を鳴らしていた。
そして、私が沈黙を破った。
「ンバリアはどうなった?」
「分からない」とポリス。彼はさらに言葉続けた。
「あの後、この星の人間に会って、都心へ案内して貰うことになったんだ。」
「なに?その間ンバリアは?」
「海の近くで寝かしつけていた。」
私は大きくため息をついて、ポリスを咎め立てるように言った。
「君は本当にどうしようもないバカだな。もし近辺に肉食の生物がいたらどうする?もしくは不意の事故で彼女が怪我をしたら?容態が急変したら?
私はそのリスクを軽減する為に、君にンバリアを任せたのだよ。少しは頭を使って行動したらどうかね。」
我慢の限界がきていた。もうこの愚鈍者にはうんざりだ。こいつが成すこと全てが、マイナスに作用している。
「俺だって!」
ポリスは声高に叫んだ。
その声には、憤怒や秘めたる感情の爆発とやらが、お互いに強い色と成してかち合い、入り交じっていた。
「俺だって、役に立ちたかったんだ。こんな事態を引き起こしてしまった埋め合わせがしたかった。」
「結果が着いてこなきゃ無駄なのだよ。」
私は辛辣に述べた。それから二人は、一切言葉を発しなかった。次に迷彩服の生物が現れるまでの時間が、ひどく長く感じた。

「この部屋だ。」
「ここは?」
迷彩服の男に連れられ、やってきた場所は、さっきの殺風景な部屋と比べると、えらく清潔で、なおかつ豪奢だった。
「客室だ。ここにはいる前に、左手にある殺菌室で浄化して、我々の用意した服に着替えろ。」
神に会うには相応しい格好をしろ。ということか。
複を着替えさせるのは、武器を隠し持たせない為でもあるのだろう。
私たちは命令に従い、殺菌室で身体を洗い残しなく洗浄され、服を真っ白で余計な装飾のない、全身タイツのようなものに着替えた。
部屋に入ると、フカフカそうな深赤色のカウチと、ローズウッドのように艶やかで、クラシック調のテーブルの上に、見たこともない果物が、皿に彩飾されているのが目についた。だが、純白の服に着替えた先程の迷彩服生物は、我々をくつろがせることなく奥の扉に案内した。
この先に神がいるらしい。

扉を開くと、そこには真っ白な空間の真ん中に、円筒状のコンピューターが大木のように、そびえ立っていた。
迷彩服生物は部屋に入るや否や、ひざまづいて、敬意を示した。白い服が部屋と同調して、首から上だけになったみたいに見えた。
ポリスはコンピューターに指を指して、迷彩服生物に訊ねた。
「これが神だってのか?」
「貴様、無礼だぞ。」
すると、円筒状のコンピューターは様々な色の光を明滅させながら、声を出した。
非常に機械的な声で、部屋中にそれがこだました。
『下がれ。マルクス。』
迷彩服の生物の名はマルクスというらしい。
マルクスは声も出さずに、深くお辞儀をし、部屋を後にした。

そして、神であるコンピューターが話を始めた。
『お前たちは、他の星の者だな?』
「そうだ」と私。
『お前たちはこの星に存在してはならない。
この星は私が統制している。私の統制下にない者は滅失しなければならない。』
「我々は貴方に逆らう気はない。ただ、この星に不時着した際に、宇宙船を失い、仲間が一人負傷してしまったんだ。
医療機器と宇宙船を貸して欲しい。そしたらすぐにでもこの星を出ていくよ。」
端的にこちらの要求を述べた。
『それは不可能だ。』
「何故だ。」
『宇宙船を貸すということは、この星民がお前たちに関与しなければならない。この星で生活する以上、外部の者との接触は許されないのだ。』
話が見えなかった。
「接触が許されない?何故だ?」
とおうむ返しに質問した。それ以上に疑問はあるが一つずつ潰していく必要があるだろう。
『統制下にないからだ。外部が関与すると統制が崩れる。もう深く関わってしまった、マルクス、エマ、ウィリアムは削除しなければならない。』
「なんだと!彼女たちは関係ないだろう!」
今まで黙っていたポリスが、半歩前に出て怒号をあげた。
しかし、その発言にいち早く反応したのは私だった。
「彼女たち?君もエマを知っているのかポリス?」
「・・・あぁ、さっき言ってた“都心へ案内してくれたこの星の人間”ってのがエマ・グリーンさ。」
「それはいつだ?」
「お前が散策を始めてからすぐだよ。」
「ばかな、そんなことはあり得ない。
私がエマ・グリーンと会ったのも、散策を開始してから数分と経っていない。
“エマ・グリーンが二人存在していた”とでもいうのか?」
私の声は震えていた。ポリスも顔が、着ている服のように真っ白になっていく。
なにか、奇妙なことが起こっている。いや、既に起こった後なのだ。

『エマ・グリーンは統制下にあるからだ。』
とコンピューターは述べた。
「どういう意味だよ。」
ポリスがおずおずとした声で尋ねる。
コンピューターは抑揚のない声で話を続けた。
『この星の人工は、約一億人いるが、人間のパターンはその数値を下回っている。』
「は?」とポリス。
「遺伝子構造が被ってる奴がいる、という事だろう。」
私はコンピューターの発言を咀嚼して、ポリスに分かるように言葉を付け加えたが、それでも彼は理解していない様子だった。私はそれにもイライラしていた。
『遺伝子構造か。お前たちの言葉に変換すると、そのようになるかもしれない。しかし、実際は違う。
プログラミングを新たに作るコストを削減する為、コピー・ペーストした人間が存在するというのが正解だ。』
「なに?それじゃあまるで、この星の人間は・・・」
『その通りだ。Mr.ノル・ディーア。
この星の人間は、私によって創造され、統制されている。だから私は神なのだ。
形而上の意味ではない。私は実存する神として、この星を統制している。』
「何をいってるんだこいつは?」ポリスは額に汗を湿らせ、コンピューターを睨み付けていた。
私の声は一層に震えて、殆どしゃがれ声のようになっていた。
「分からないのかポリス?
この星の人間は全て、このコンピューターによって制御されている“プログラム”ということだよ。」
「なっ・・・」

『ご名答だ、Mr.ディーア。私は崇拝されているから神なのではなく、神だから崇拝されている。
その忠誠心は絶対的かつ、揺るぎようのないデータなのだ。』
だから、プログラム外である我々は悪玉菌として排除されるという訳だ。
マルクス、エマ、ウィリアムを削除するというのは、存在を消すという意味ではなく、記録を0にするという事だろう。
だが我々の削除は違う。国民国家を総動員して我々の存在を消すという事だ。我々には戦う武器も、逃げるための船もない。
こいつらにとって、死こそが我々に組み込まれたプログラムという訳なのだ!

「たが分からないな神よ。星の統制が目的であるなら、エマ・グリーンのような視覚障がい者は、コストを下げる要因にしかならないはずだ。
あれはなんだい?君にとってのバグなのか?」
それは、私の個人無意識より生まれる、知的好奇心から発生した質問だった。そして、打開策を考えだすための時間稼ぎでもある。
『いい質問だMr.ディーア。
人間というのは自分より劣っている民族を見て、自分が幸せであると気づき、それにより創造者に感謝をする。
エマ・グリーンはその為の潤滑油という訳だ。』
なるほど。その為に支払うコストという事か。
彼にとって対した過誤でないって訳だ。
「潤滑油だと?自分の星の人間を、潤滑油扱いしてるのか?ふざけるな、お前は最低な君主だ!」
ポリスは憤然としていた。
「ポリス、彼らは神によるプログラムだ。
チェスの駒に感情移入してるような物だぞ。」
「こんな狂った独裁者に肩入れするのかノル!?」
「私は是々非々で物を言ってるだけだよ。」
『Mr.ディーア、君は聡明だ。私が書いた、いかなるプログラムよりも優れている。
私の下で働く事を勧めよう。』
「それもいいかもしれないな。どうせ、この星からは出れそうにない。」
それを聞いて、ポリスは私の胸ぐらを掴んだ。
「おい、ノル。冗談でも言って良いことと、悪いことがあるぞ。」
「この状況を引き起こした君がいうかね?」
暴力では勝ち目がないが、口論では引かなかった。
それに、絶対的にこの愚鈍者よりも、自分の方が正しいという自信もある。
ポリスは少し言葉をつまらせてから言う。
「ンバリアは?彼女は見殺しにするのか!?」
「彼女は既に助からないよ。もう死んでるかもしれない。」
ポリスは私を、ノル・ディーアを強く殴り付けた。
ノルは赤くなった頬を押さえながら、ポリスと反目し合う。

「お前は狂った神の、更に狂った“狂信者”に成り下がっちまったって訳だ。」
ポリスは真っ白な空間に、浮いたように存在する扉に手をかけた。
『何処にいくつもりだ?ホン・ポリス。』
「帰るのさ、自分の星に。」
ノルはポリスの愚挙を鼻で笑った。
「君が宇宙船でも作るのか?町の外にある樹木でかい?」
「笑ってろ」
そう言い捨て、ポリスは部屋を後にした。

ちきしょう。ふざけやがって。ノルはもうダメだ。完全に考え方がおかしくなっちまってる。
奴に洗脳されてしまったんだ。
身体的にも、精神的にも、まともなのは俺だけだ。
俺が何とかしなくちゃならない。結局は俺が船長なんだ。
だけど、どうしよう?
俺は今、何処にいるのかすらも分からない。
それに、ノルとあの忌まわしきコンピューターの話によると、この星の人に見つかったら殺されてしまうらしいじゃないか。
くそう。こういう時、自分の無策さに腹が立つ。
いつだって、ノルやンバリアに対して、自分が劣ってるような考えに、させられちまうんだ。

コンピューターが住まうこの建物を出ると、夜の暗がりの下に、荒涼とした砂漠が広がっていた。
ちきしょう。ちきしょう!!くそったれめが!!
俺には乗り物すらないじゃないか!!!
俺は地面を強く叩いた。手には小石がめり込み、砂ぼこりが舞った。
何一つ上手くいかない現状が、酷く腹立たしかった。自分の無力さが悔しくて、涙が出そうだった。

途方に暮れつつも、前に進んだ。
行き先が、今向いてる方向が正しいのかすらも分からないが、とにかく歩を運んだ。
はは。まんま、俺の生き方みたいだな。
俺が道を間違えたとき、いつもはノルやンバリアが是正してくれた。悪態をつきながらも、俺を正しい道へと導いてくれていたんだ。
だが俺は今日、あいつらを無視して、自分の欲望につっ走り、取り返しのつかない事態を引き起こしてしまった。なさけねえ。目からは涙が溢れてきた。
俺は男だ。泣くなんて、みっともない。
押さえようとすると、どっと溢れてくる。
俺は涙すらもコントロールできない。大間抜けだ。

「何で泣いてるの?」
ハッと俺は目を見開いて、前を向いた。
そこにはエマ・グリーンがいた。
なんだこれは、幻覚か?忽然と彼女が現れたんだ。
こんなのってあり得るか?
「ねえってば」
「お前、どこからきた?」
エマ・グリーンはむすっとしながら答えた。
「質問に質問で返さないでよ。」
なんとなくその反応が、ンバリアに似てる気がした。
「あたし、この辺に住んでるのよ。この辺と言っても結構歩くけど。ねえ、何で泣いてるのよ。」
この辺に住んでるってことは、近くに町があるってことだ。少し希望が見えて来た気がした。
「泣いてないさ。というか、目が見えないから分からないだろ?」
「すすり泣きする声が聞こえてたんだもん。女の子みたいにね。」
思わずはにかんだが、それはエマには気づかれてないだろう。
「さっきの海辺に連れてってくれよ。友人が待ってるんだ。」
「いいけど、さっき海辺であなたと会ったエマ・グリーンは、あたしじゃない方よ。記憶は同期してるけど、全然違うんだから。」
エマは明らかに機嫌を損ねていた。
これがプログラム?ふざけてる。彼女のこの膨れっ面も、神が作り出したというのか?
「さっきからなにブツブツいってるの?」
「なんでもないさ。」
俺は地面に落ちていた石ころを蹴りあげた。
空を見ると、似たような恒星達が煌めいている。
半日前くらいには、あの中を宇宙船で泳いでいたという事実が、かなり遠くに行ってしまった気がした。

『Mr.ディーア、私の勝ちだ。』
チェスのルールを教えてから、僅か20局で神は私を越えた。素晴らしい学習能力である。
「面白い。恐らく私が今後、本気でチェスを学んだとしても、君には勝てないだろう。次はチェッカーでも学ぶかい?」
『いや、もういい。そろそろ星民達のプログラムが、ホン・ポリスを捕らえるものに書き変わる頃だ。』
「そうか。」
私は真っ白な空間に、持ってこさせた赤いカウチに寝そべった。横ではマルクスが、大きな葉っぱ状の団扇で私を扇いでいる。
マルクス、チェス盤をさげてくれ。」
マルクスは忌々しそうな目で私を睨み付けながら、命令に従った。彼が崇拝してるのは私ではないと、ハッキリと態度に現れている。
「ポリスを拘束した後、どうするんだい?」
憂慮してるわけではなく、素朴な疑問だった。
『勿論、削除するつもりだ。そうだ、その処刑人をお前にやらせよう。お前がどれだけ感情のない人間なのか、単純に興味がある。』
「悪趣味だね。」と言って、私はニヤリと笑った。
感情のない人間か、そんな風に言われることは今までに多々あったが、コンピューターに言われたのは初めてだ。しかし私は怒ったり、今みたく笑ったりする。つまりは0ではないのに、無いと表現されるのだ。
万能の神であるコンピューターが、そんな矛盾を言うのが、余計に面白く感じた。
マルクス、やはりチェス盤を戻してくれ。」
ふと、私は本当にこのコンピューターを越えられないのか、試してみたくなった。

「そういえば、貴方たち、なんで神に連れていかれたの?」
エマ・グリーンは数歩前で俺を先導している。
俺は体力に自信があったが、彼女は疲れというものを、全く知らないようすだった。
汗だくで、息を切らせながら歩く俺に構いもせずに、ふつうに話しかけてくる。
ひょっとすると、俺がバテてるという事も分かってないんじゃないか。
「宇宙人だからだよ。俺が。」
「もー、真剣に答えてよ。」
彼女は信じなかったし、それを証明する手だては俺にはない。
「本当さ。そうだ、宇宙船が修理できたら、お前を連れてってやるよ。
そしたら俺の星の技術で、目を治療出来るから、自分の目で確かめてみるといいさ。」
「いいね、それ。」
エマは微笑んだ。そういえば、笑うところは、はじめてみるかも知れないな。いい笑顔だと思った。
「もうすぐつくよ。」
「え?もう?」
歩き始めてから一時間と経っていない。
海辺からあの建物まで連行された時には、けっこうな時間が経過していたとおもうけど・・・
まぁ、いいや。
とにかく俺は、ンバリアが生きていることを祈ろう。ついでに船も直ってたらいいのに。
「まって、ポリス。」
彼女は急に立ち止まった。思わずぶつかりそうになった。
「なんだ?」
「貴方はここを動いちゃいけない。」
「なんでだよ、エマ、早くしないとンバリアが危ないんだ。」
俺は、エマを横切って先に進もうとしたが、エマは俺の腕を強くつかんで、動こうとしなかった。
「なんのつもりだ。」
「ダメ、ダメなの。貴方を進ませたくない。きっと、神にプログラムを書き換えられたのよ。」
「よしてくれ」
俺は無視していこうとしたが、彼女は俺の体に腕を回して引き止めてきた。
「おい!」
思わず力を込めて、振り払ってしまった。
彼女が地面に倒れて尻餅をつく。
「あ、ごめん・・・」
彼女は、間断もなく立ち上がり、なおも俺の体を拘束しようとした。
「ダメよ、プログラムには逆らえない。
きっと、もうすぐ神の追っ手が貴方の下に現れるわ。」
「俺はどうすればいい。」
「あたしから、逃げて。」
そう言いつつも、彼女は泣いていた。
それは、感情から溢れだした、声なき嘆きだった。
俺は、くしゃくしゃの顔で、俺にしがみつく彼女を抱き上げた。
「え?」と彼女は驚きの喘ぎを漏らした。
俺は、海辺に向かって余力を振り絞り、走り出す。
「目を直してやるっていったろ。そこで、その糞みたいなプログラムも書き換えてやる。
お前は一人の女の子として生きていいんだよエマ。」
彼女はなにも言わず、顔をうずくめて泣いていた。
ぎゅっと、強く俺の体を抱き締める腕は、俺を捕らえようとしているのか、もしくは愛から来るものなのか、俺にはどうでもよかった。
彼女の暖かさが、真実だと思った。

『海辺に星民を総動員させた、ホン・ポリスが捕まるのも時間の問題だよMr.ディーア。』
「そうらしいな。」
私はチェス盤をしまい、大きく伸びをした。
コンピューターは、相変わらず感情のこもってない声で、話を続ける。
マルクスに乗り物を準備させた、お前も現地に向かうといい。そこを処刑場にしよう。』
「君は立ち会えなくていいのかい?」
「立ち会うさ。」
後ろから声がしたので振り向くと、マルクスが無表情で立っていた。
姿勢や仕草にも、どこか、感情がなかった。
マルクスには私のデータを受信する機能が備わっている。つまり、憑依出来る。だから側近なのだ。』
「なるほどね。」
私はあまり驚かずに答えた。
あくまで想定の範囲内、という素振りをした。
「さあ、いこうか。」と抑揚のない声で、神であるマルクスが私に呼び掛ける。そして、彼は私に拳銃を差し出した。
「弾は一発だ。君の知能なら、分かるだろう?」
私は有無も言わずに、銃を受け取った。
それを使い、その場でコンピューターを破壊する事も出来たが、そのまま彼に同行した。

私をここまで運んできた飛行船がある部屋の隣に、二人乗りのホバーバイクが、並べて停めてある倉庫があった。
「飛行船以外は、タイヤのある乗り物しかないと思ってたよ。」
「ホバーは電力が嵩む。だから、私の側近にしか使わせないようにしている。」
コンピューターの神にとっての電力は命だ。
なるべく倹約している理由は、容易に理解できた。
「Mr.ディーア。後ろに乗るか?それとも自分で運転するか?」
「あいにく免許をもってないんでね、乗せてもらう事にするよ。」
ジョークのつもりでいったが、コンピューターは笑わなかった。
ホバーバイクの後ろに股がると、バイクは音もなく宙に浮き始めた。そして、目の前の壁が左右にスライドして開き、途方もなく広い、寂寥とした砂漠が、眼前に見えた。バックサイドのホバーが音を立てながら火をふき、バイクが物凄い勢いで驀進する。
外に出ると、暁天の空が、仄かに私たちを照らした。もう、朝になるのか。それ以上に感じたことはなにもなかった。

ポリスは海辺に、最初に不時着した、その場所へと帰着してから、ンバリアがいなくなってることを確認した。
ンバリアを寝かしつけていた場所から、海の方まで、血痕が伸びている事に気づく。
恐らく、自殺したのだろう。俺たちが戻らないことを悟り、余力を奮い、地を這って、波に身を預けたんだろう。
自身の苦しみから逃れる為?それとも、俺たちに迷惑をかけないようにとでも?
ンバリアの最後の決断が、合理的なものか、感情的なものなのか、ポリスには想像する事しかできない。
冷たい風が静かに吹き、ポリスは少し身震いをした。耳をすますと、波の音が物憂げに聞こえてくる。
現在、かろうじて俺の自我を繋ぎ止めているのは、エマ・グリーンだろう。そして、そいつももうすぐ失ってしまうかもしれない。とポリスは思った。
俺は今、“完全に包囲されている”のだから。と。

海を取り囲む木々の影から、星民達がゾロゾロと現れた。その中には、ノル・ディーアもいた。
彼はポリスに銃を突きつけた。
「まだ、何とかなるとでも思ってるのかい?」
ポリスは、諦めの笑みとも取れるような表情で、答える。
「“俺たち”は最低なクズ野郎だな、ノル。」
ノルは銃口を正確にポリスの頭部に向けながら、彼に歩み寄った。慎重に、半歩ずつ。
「私と君は違うよ、ポリス。私は順応したんだ。だから、この星民の群れの中にいる。そして、その群れに紛れることの出来なかった君は、死ぬことになった。」
ポリスは一層強く、エマを抱き締めた。
高鳴る心臓音が、どちらのものか分からなくなるくらい、体を密着させた。
「殺れよノル。ノル・ディーア!お前が得られる物は、なにもないがな。」
ノルは、笑った。その笑みは微笑から始まり、次第に高らかな大笑へと変貌していった。
ヒステリックな噴飯だった。
「確かにそうだろう、君を殺しても私の手持ちはプラマイ0だ。だが、あそこに立っているマルクス
あれには神が憑依している。
私は彼に銃身を移動させ、撃ち殺すことも可能だ。
しかし、彼を殺したところで、大元のコンピューターは破壊されない。
そうすると、コンピューターは星民全員を使い、私を殺しに来るだろう。そうなれば、私は私を失うことになる!
分かるかポリス?分かるだろう?」
そして、ノルは銃を下ろした。息を弾ませ、口角は上がったまま、マルクスの方を一瞥した。
「さきほどね、私はあのコンピューターに、勝てるか否か、試したくなったんだよ。しかし、奴は私と同じ、利己的かつ合理主義者だ。なおかつ処理能力は私の何千倍もある。
奴は完全に私の上位互換だと、挑戦してみて気がついたんだよ。分かるか?分かれよ。分かるだろう?
やつが、奴こそが神に相応しかったんだ。
だが、ポリス。君は私とも、奴とも違う。
君は感情論者だ。ロジックを無視して突き進む、大馬鹿野郎だ。愚鈍者だ。」
ノルは銃口を自分の頭部に向けた。 
ポリスはノルのしようとしていることを理解し、止めようと、彼のもとに走りよった。
「私は今でも、お前のような感情的な奴が大嫌いだよ、ポリス。」
銃声は鳴り響き、辺りには血煙が舞った。
ポリスは絶叫した。まるで、咆哮のように、その叫びは言葉と成してなかった。

ノル・ディーアは死んだ。

 

「分からないな、Mr.ディーアのような賢人が、何故このような非合理的な行動に走る?」
マルクスの形をした神は、ノルの死体に近づき、足で小突いた。
「くそったれ!!!!」
ポリスは、その場で神をぶん殴ってやりたがったが、エマを抱き抱えたまま、走り出した。ノル・ディーアの意図は、彼には理解できなかったが、生き延びねばならないと思った。
星民たちは、彼を追走しようとしたが、神がそれを止めた。
「奴はいいよ。後でエマ・グリーンのプログラムを、ホン・ポリスの抹殺に書き換えておく。
お前たちは普段の生活に戻るといい。」
神の言葉に髄順して、星民たちは足並みを揃え、町へと引き返していった。

マルクスはふと、ディーアの死体の脇に咲いてあった一輪の花を引き抜き、彼の手に握らせてみた。
なんの意味も持たない行動だった。