消毒


「はっくしゅんっ」

渡辺次郎のくしゃみにクラス一同が注目する。
次郎は鼻をかんだあと、それに気づいて口を開いた。

「な、なんだよ皆、青ざめた顔して」

「先生、今次郎くんが...」

「ええ、見ていたわ...」

そして先生が全ての教室の教卓に備え付けられているボタンに手をかけた。
すると黒板の上の放送用のスピーカーから避難訓練の時のようにベルが鳴り出す。

すると次郎以外の教室にいた人間が一斉に教室を出た。
「みんな、押さないで。
落ち着いて避難してください!」

その様子を唖然としながら見ていた次郎が皆と同様に教室から出ようとしたが、先生の手によって教室のドアが固く閉ざされている。

「先生、これはいったい...」

「次郎くん、大丈夫よ。すぐに専門家の人がくるからね!」

それからしばらくして、ヘリコプターや救急車、それに軍隊用の車のようなものがサイレンを響かせながら、まるで開店バーゲンに並んでいた主婦ように次々と学校内に流れ込んできた。

そして学校全体が隔離され、次郎は即席で作られたビニールハウスの中に入れられるとそれをマスコミやら野次馬やらがぐるりと囲んでいた。

他の生徒たちはガスマスクを着けた医師たちに精密に検査されてから宇宙飛行士みたいに全身消毒されたのちに一人ずつ解放された。


そして次郎だけが隔離病院へと運ばれる。
そこでは一面ガラスでおおわれた何もない部屋に次郎が入れられ、それを外から専門家や医師たちがコンピューターや謎の機械をつかってなにやらデータのようなものを解析していたり、メモを取りながらプチ会議が行われていたりした。

「おい出してくれよ!ただの風邪だってば!」

次郎がガラスをバンバンと叩きながら何かを叫んでいるがプライバシーの為か外側からは何も聞こえない。
勿論、次郎側からも外の音が聞こえないようになっているので次郎からすればそこで何日か過ごさなきゃと考えただけでよ気が狂いそうなことなのだ。

外からガスマスクを着け、ナース仕様の白い防護服を着た女の人が食事や薬を運びにくる時に次郎は何度も脱走しようとしたが、そのガラス張りの部屋の外には大きなライフル銃をもった人が常駐しているのでそれは不可能だった。

風邪のウイルスに体を蝕まれてから、この病院を退院出きるまでの期間は
精密検査の後の国に提出しなければいけない書類やらなんやらと、退院許可が出るまでの日数を合わせて約二週間にも及ぶ。

そしてやっとの思いで病院から出ることのできた次郎は、もう二度と入るまいと手洗いうがいはお手洗いに行く度に行い、常にマスクをつけるようになった。

こんな苦しい思いをしなければならない風邪ウイルスに皆さんもどうか気をつけてほひ...は......ふぁ...........

 

へっくしゅんっっ!!

ズズ...
いやあ、この時期は花粉症が酷いな。
私、昔から花粉症なんですよ。
あれ?皆さん、どうしました?そんな青ざめた顔して、
花粉症ですよ花粉症。風邪ウイルスなんかではありません。
あ、ちょっと、そのスイッチ、まて、花粉症だってば
おいお前なにする手をはな